皆さんは…

 タールベルグという音楽家をご存知ですか? 簡単に説明すると、19世紀に生きたピアニスト兼音楽家であり、当時は「史上最高のピアニスト」と言われた人です。彼の十八番でもあった「3本手*1」は、後世のピアノの書法に大きな影響を与えたといって過言ではないでしょう。
 ちなみに同時代にはもう一人重要なピアニスト兼音楽家が居たのですが、こちらは現在でも知名度が高いフランツ・リストになります。当時はこの2人がピアノ演奏界に君臨していたのですが、一度だけ直接対決があったそうです。その時、どちらも優劣が付けがたい演奏をして、タールベルグは「史上最高のピアニスト」と称され、リストは「この世で唯一のピアニスト」と言われました。
 さて、技術的にはまったく互角だった2人のうち、リストだけが今でもその存在を知られていて、タールベルグが闇に葬られてしまったのでしょうか?
 もちろん、リストは次世代の橋渡しになるような「新しいこと」をいろいろやってきた功績があって、名が残っているかもしれませんが…。一方、タールベルグの方はというと、最近は彼の作品がCDとなって出回っているので、聴くとわかりますが、当時の流行の音楽の域から脱していないのです。もちろん技巧的にはすごく難しい曲なのですが、聴く人に「驚嘆」はさせても「魅了」はさせられないんだろうな、と作品から感じてしまいました。音楽的な感動といえば、タールベルグの「モーゼの主題による幻想曲」よりも、リストの「ノルマの回想」の方が遥かに上なのです。
 どこかの本にも書かれていましたが、タールベルグはその技巧を「目的」としたのに対し、リストはあくまでも「手段」であったといわれております。この差が、リストを「唯一のピアニスト」と称された所以でもあるような気がします。ちなみに技巧目的であっても、その場で演奏風景を見てしまえば、聴衆は熱狂し、演奏者をたたえているでしょう。でもそれって、多分TVの特集でやっているびっくり人間のパフォーマンスを見て驚嘆するのと同じことだと思うのです*2
 さて、前置きが長くなってしまいましたが、これを踏まえて(?)今回紹介する作品について考察いたします。「萌えさいと(管理人:あかみさん)」にある北島さんの作品で、過去の比較対象を考慮してここでも「鳥の詩」のピアノアレンジを取り上げたいと思います。

 下のコメントにもありますように、作者本人からの補足説明がありました。このMIDIデータは楽譜から起こしたのみのデータであり、特に「聞かせる作品」として意識したデータではないこと。そもそも批評以前の問題だそうです。しかし、世に出てしまっている以上は、あえて考察してみたいと思います。もちろん楽譜の方の修正も今後されるようでしたら、文章の方も修正して行きたいと思います。よってここではこの日付時点での批評と思っていただきたく。

 まず一度目に聴いた感想。はっきり言って(良い意味で)馬鹿です(苦笑)。ここでいきなりこう来るか!という展開が目白押しで、演奏者を終始楽をさせない印象が伺えます*3
 ここでは同サイトで楽譜も落とせるので、その辺も考察してみようかと思います。まず、気になる点が、72小節までずっと「Allegro non troppo」であること。ちなみに意味としては「過度に速くなく」と言う意味になります。Allegroの意味としては「陽気に」という意味もあるそうですが、ここではおそらく単純に「速度的」な意味合いで用いているのでしょう。もし「陽気に」という意味合いがあるのなら、原曲とは微妙にイメージが違う気もしますが、それが悪いわけでもないので、次に行きたいと思います。
 これはおそらく打ち込みのせいだと思うのですが、36小節からの中声部分が目立ちすぎます。楽譜では「p(ピアノ)」の指定で、他の声部と比較すると一番弱い部分です。おそらく、本来ならばここは料理でいう「スパイス」みたいな感じになるのではと考えているのですが、今の状態で聴く限りは「スパイス効きすぎで咽てしまう」という印象を受けます。あとここからもし楽想記号をつけるなら「vivace(活発に)」あたりを入れたいところ…。おそらくこの楽譜を見る限りの得られる情報としては、「強弱」と「テンポ」ぐらいですかね。まぁ、この段階でもすでに同人でやってる人はほとんどいなくなっちゃうんですけど、もうちょっとそれ以外の情報があると、作者の思惑とかいろいろ考察できて楽しいんですけどね…。
 とりあえず、楽譜をみて「指を動かしてみようか」と思えるような代物なのですが、やっぱり「楽想」の情報がないと、技巧目的に見えてしまい、序盤で述べたような印象をもってしまうのです。
 作品考察はとりあえずここまでにしておきます。同上のサイトをうろついていたら、どうやら葉鍵系同人音楽演奏会、また将来は二次元音楽(美少女ゲームのBGMを元にしたピアノ曲)の演奏会もあるそうです。おそらく普通の演奏会とは違って「びっくり人間」をこの目で見れるチャンスなのかもしれません。時間があえば是非見に行きたいところですね。

*1:低音域、中音域、高音域を2本の腕で弾き分けて、まるで腕が3本あるかのように錯覚させる技法

*2:実際19世紀末期にはこのテのピアニスト兼音楽家はたくさん居たそうですが、所詮その場のウケ狙いで作った曲は後世まで残ることはなく…。

*3:おとなしいのは、せいぜい35小節ぐらいまでです。