EMBRYO Piano Works

 個人的にネットワーク環境を手に入れてから、いろいろな同人音楽を漁るようになりました。以前までは回線の遅さといい、なかなか試聴する機会が得られませんでした。したがって、この辺の世界はあまり良く知らなかったです。一部の友人が得た音楽CDを聴かせてもらいながら、いろいろ語り合ったこともあります。
 さて、ここでログを残すようになって自ら耳に止まった音楽を探してたわけですが、今回紹介する作品はタイトルの通りです。だいぶ前に少しだけ出てきたKuroya氏の作品です。事の発端は、たまたまGoogleで「同人 ピアノアレンジ」というキーワードで検索をかけたときのこと。最初の検索結果ページにここのサークル(EMBRYO)が載っていたので、覗いてみたわけです。収録曲の試聴もできたので早速聴いてみました。
 第一印象は特に「普通」な感じでした。良くも悪くもピアノアレンジで、全体ではなく一部分しか試聴できないとなると、これ以上の評価が難しいなぁと思いました。打ち込みなのはさほど気になりません。それよりも、ルバートの意味を勘違いしている生演奏者の録音を聴くより遥かにマシですから…。それから試聴ページの上から順に聴いていったのですが、特に言及するところは無く、下まで辿っていったら……。
 え、映像?
 しかもムービー製作者の[Ti]さんというと、昔先輩宅で見た「歌月十夜」のムービーの製作者だったような…。見るといわゆる名曲アルバム風のPVといった感じです。初っ端から音楽が暴れてます(´д`;
 それから過去の作品のページやら眺めてみると、なにやらいろいろとこだわりを持っているようで、少し興味が出てきたので作品全体を鑑賞しようと思いました。決定打は「左手のための夏影」。まさか同人でこんな恐ろしいことをやる人がいるとは…。あ、Piano Worksには入っていないのね…。
 以上が先日の話で、通販でも在庫薄だったようなので、友人ネットワークを駆使して何とか手に入れました。たまたま2つ持っていた酔狂な友人がいたので、何とか売ってもらったわけで…。早速聴いてみました。
 なんというか、曲の全体を聴いて初めてわかる音楽ですね。試聴では巧い具合に切れているところがなんともいえない感じがします。以前でも取り上げた縁もあるので、ここでも収録されている「鳥の詩」について考察してみようかと思います。
 まずはじめに、イントロの反復ですが、ダイナミクスの変化で印象を変える手法が新鮮でした。同人のピアノはいろいろ聴くのですが、ここまでダイナミクスレンジが広いものも珍しいですね。
 次に注目したいところはイントロ後のAメロ部分です。音響的には静かなのにやけに落ち着きがないなぁと思ってよく聴いてみると、左右でリズムが違うことに気がつきました。自動演奏ならまだしも、生演でポリリズムをやる人ってなかなかいない(技術的にも困難ですし…)ので、こういう音響って何か新鮮な気がします。
 あとは全曲を通して言える特徴的な展開*1で終わるだけなんですが、同じような反復が無いだけあって、何度聴いても楽しめます。いろいろな人のアレンジを聴いてみましたが、「即興的なもの」が多い中、Kuroya氏のアレンジは何か「計画的なもの」を感じます。ブックレットを見る限り、音が描く視的効果や心理的効果を考えているようなので、その辺が作品に反映されているのではないでしょうか。
 ただ、このテの作品の痛いところは、それが聴き手に伝わらなかったらどうしようもなく、さらに言葉で説明して理解されなかったら致命的ですね…。聴き手の感じ方と作り手の感じ方の違いは人間である以上仕方ないかと思いますが…。*2

*1:ラストスパートで超絶になるあたりが非常にロマン派っぽいです。しかも現在あまり聴かれない「技を見せるだけのための曲」みたいな感じの…。

*2:音楽だけでなく普通の言語でさえ起こることですので…。